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2012/04/10

【補講】思考のエコノミストになってはイケないという件について

「思考のエコノミスト」という蔑称は,たしか評論家・経済思想家の西部邁(にしべすすむ)さんが,どこかの月刊誌で言っていた表現だった。

 思考のエコノミストと言うのは,考えることにおいて効率性を追求する怠惰な人間のことで,何事も深く考えようとせず,考えることにおいて,なるだけ省エネ・省力化を図ろうとする浅はかな人のことをいう。

 思考のエコノミストは,即効性だけを求めるので,すぐに役に立ちそうにないアイディアや理論を軽視する。現実的な利得(たとえば試験に出る,他人から評価されるなど)のために知識を仕入れようとするので,決して在庫は持たない。自分の思考力を鍛えることに関心がなく,声が大きい偉い人の言うことを鵜呑みにする。

 思考のエコノミストは,省力化・効率化を第一の命題とするから,テレビや映画など即効性のあるメディアを好む。活字を忌避し,ボキャブラリーは最小限のもので済まそうとする。

 試験勉強においても,同じことが言える。とくに,勉強の初期段階においては,絶対に思考のエコノミーを追求してはならない。追求すべきなのは,時間の効率性,つまり無駄な時間を排除し,もっとも頭が冴えている時に思考を集中できる時間配分を設計し実施することである。

 「試験においては,出題されることが決まっているのだから,考えないで,覚えればいい」という人もいるかもしれない。たしかに,レベルの低下した一部の入学試験などにおいては,それで事足れり,なのかもしれない。しかし,難しい試験においては,そうではない。

 出題されるすべてのことを,覚えていられるか。根本の基礎的な理論や理屈を抜きにして,完全な暗記はあり得ない。理論・理屈の理解には,思考のトレーニングと,その内面化のための言語化の過程が必要になる。つまり,思考をフル稼働させ,じっくり・しっかり考える過程がどうしても必要になるのである。

 また,近年の医学部入試のように,既習の知識を組み合わせて,新出の課題を解かせるような問題を解けるようになるためには,かならず一度は,しっかりとした思考の訓練が必要になるのである。


 昨日は,例年よりやや遅めの桜の満開のなか,4月生(第1期スタート)の開講オリエンテーションが行われた。通学制の塾生のみなさんの前で,各先生方が強調されていたのは,つまりこういうこと。ただ覚えればいいというわけではない。理論をしっかり理解しなさい,理屈・理由がわかるようにしなさい,ということであった。

 折しも,神戸女学院大学の元教授で,思想家・武道家(?)の内田樹先生のブログでも,分野は異なるが,似たような趣旨のことが書かれてあるのを読んで,私は膝を叩いて喜んだのであった。


 内田樹先生のブログは,こちら。受験生もたびたび目を通すとよい。

 西部邁先生の「思考のエコノミスト」論(?)は,典拠が不明。たしか,エコノミスト批判の文脈で出てきたはず。

 以上,年度初めの余談でした。